2014年10月18日土曜日

随筆と絵

学生たちと読む古典、今週のテーマは徒然草である。英訳を通してではあるが、中世的な思弁と饒舌を体験してもらおうと、まとめて最初の19段を取り上げた。表現の妙に共感を覚えてもらうのが目的だが、それでもなんらかのビジュアルなものがあればと、絵を探してみた。近年の出版により広く知られるようになった海北友雪の絵巻にはすぐにアクセスできず、代わりに版本の絵に目を向けた。

調べてみれば、デジタル公開で利用できるものだけでもかなりの数にのぼる。「徒然草絵抄」(京都大学附属図書館)、「頭書徒然草絵抄」(国会図書館)、「つれつれ草 : 絵入」(早稲田大学図書館)はいずれも全文収録で、画質もかなり高い。検索を続ければ、きっとあるに違いない。簡単に見比べた限りでは、互いに構図などの直接な関連は認められず、どこまで基礎的な研究がなされているものか、これにも興味をそそるものである。木版の書籍に文字に加えて絵を彫り込むものだが、そもそも絵そのものの意味合いがそれぞれかなり違う。頭注、すなわち本文に対しての一種の図解、あるいは絵による索引という姿勢で臨むものもあれば、たとえば奈良絵本の流れを汲み入れ、挿絵に仕立てるものもある。興味深いことに、前者の絵の頭注の場合、絵と文字との対応にさほど自信がないせいか、あるいは逆に対応の仕方を明らかに表すことに強い責任感からだろうか、絵の中に本文の文句を長々と書き入れている。書籍の中に入った絵のありかたについて、表現者はそれなりに苦労をし、迷走していたことをかいま見た感じがして、なぜか手に汗を握る思いがした。

20141018木版印刷の絵は、媒体の条件によってさまざまな制限を受けていた。一方では、優れた構図は、絵巻を含むそれまでの絵画の伝統と無関係なはずはなく、その一部は、実際にあらたに作られる絵巻にしっかりと影響を与えた。版本の絵と絵巻との交流、これまた魅力的なテーマである。(右は、「つれつれ草 : 絵入」(八オ)より)

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