2016年7月16日土曜日

漢籍リポジトリ

ますます大きな規模のデジタルデータ公開が続き、古典研究を含むさまざまな分野においてその基盤がすこしずつ整い、オリジナルデータを整理したり、異なる次元の情報を付け加えたりするような課題は、つぎからつぎへと具体的になってきた。デジタル環境におけるつぎなる大きなうねりを迎えようとして、基本となる方法論を見定めることが要求されてくる。その一例として、今年三月から公開した「漢籍リポジトリ」の紹介文は、たいへん興味深い。

中国の古典籍を対象とするこの大きなリソースは、四庫全書のような底本を頼りにしつつ、デジタル環境でのテキストの未来形を探ろうとしている。そこで、いわゆる古典のありかたをめぐり、文献学的に理路整然と述べている。そこで使われている中心的なコンセプトは、つぎの四つのレベルに別れるものだ。いわく、著作、表現形、体現形、個別資料。かつて軍記ものをテーマに過ごした学生時代のことを思い出しながら、「平家物語」のありかたに添って上記の概念を説明するとなれば、「平家物語」とは著作、覚一本とは表現形、日本古典文学大系に収録されたのは体現形、そして架蔵の1976年第19刷の二冊は個別資料である。四つのレベルにあるこのような概念とその相互関係は、いたって明晰にして分かりやすい。ただ、文献学を体系的に勉強していないので、この四つの用語は、はたして十分に共有されているかどうか、にわかに答えを知らない。

あらためて紹介文を読みなおして、そのタイトルに「デジタル文献学」と大きく名乗っていることに気づく。デジタル時代の必要に応じての文献学、言い換えればデジタル環境の必要に備えての関連概念の整理だという理解も成り立つことだろう。そうなれば、デジタル環境の確立は、在来の文献学のさらなる発展に直接に繋がるという側面も、見逃してはならないだろう。

デジタル文献学が漢籍と出会う

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