2018年6月23日土曜日

模写を教室に

今学期の予定している講義は、すでに三分の二程度済んだ。その中の一つは、絵巻を取り上げている。教室に入ってくれているのは、一年生を中心とした、日本文学などを専攻しない学生ばかりである。いわば教養そのもののクラスだ。120人もの若者を相手にし、マイクを握っての講義は、さすがに新しい経験であり、こちらにも得るところがいろいろとあった。

先週のクラスの内容を例にしよう。選んだ内容は、「石山寺縁起」。詞と絵とをトータルに見せた上で、一つのテーマに絞って話題を展開するという進行をしている。わずか一時間半なので、同絵巻の巻二のみを対象とした。七つのストーリは、伝説から記録、神秘な夢から神話的な竜の出現、寺院の長老から文学史上の有名人と、じつに多彩でバランスよく配置されている。ただ、予習に課するには、手ごろな教科書はどうしても見当たらない。図書館に入っている全集などに当たらせるということも考えられるが、ほとんどの学生には図書館の存在さえ特別なものだと思われる節がある。そこで次善のやりかたとして、思いっきり模写のリンクを提示した。国会図書館所蔵のそれは、色をほとんど施されている以外、原作の様子をきちんと伝えていて、なんとなく愛着を感じる。もちろん後半の課題講義において、原作のカラー写真を大きくスクリーンに写し出しておいた。しかしながら、かなり意外なことに、講義最後に質疑や感想などを所定のデジタルフォームに記入させたところ、「絵に色がないため」云々の、宿題に見た絵巻が模写だったことをまったく理解していなかったコメントが数人もの学生から寄せられた。模写という事実を思う以上に現代の感覚に訴えない、言い換えれば古典だと言われればすべてそのまま受け入れてしまうということを気づかされ、教える側の軽率を大いに反省させられる材料となった。

一方では、どの絵巻を持ち出しても、なんらかの形で高校などでの勉強に繋がりを持っているとのコメントがあったことには、やはり心強い。絵巻に描かれた画面は、どのような経緯を辿ったにせよ、それなりにいまの若者たちの教養の一部になっているものだ。

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