先週とりあげた「石山寺縁起」の画面を見つめて、さらにもう一つ記憶に留めておきたいことに気づいた。同絵巻の巻二第六段、歴海和尚をまつわる霊験伝説である。孔雀経を読み上げたところ、諸々の竜がその声に応えて姿を見せてくれるという、なんとも有難い風景である。
絵巻の画面には言うまでもなく思い思いの竜たちの姿が描きこまれる。人間の世に訪れ、名僧に対面するものだから、かれらの中の一部は人間の姿を借りる。そこで人間に変身した竜や蛇の姿である。かつて記したように、人間の体に竜の頭というスタンダードな「人身竜頭」(「十二類絵巻」など)に加え、その逆の蛇の体に人間の頭を据え付けたもの(「人面蛇身」)、あるいは丸ごとの巨大な蛇の体に丸ごとの人間を乗せたもの(「蛇人間」)という三つのバリエーションに纏められる。そのような目で捉えるならば、目の前の絵巻は、まさに四番目を加えた。完璧な人間の姿に対して、頭上においてちょこんと小さく竜あるいは蛇がのっかかっているというものである。同じ発想として、まわりにさらに魚やら正体不明の他の生き物を被った人間がいた。さしずめ竜と人間が合体した群像だと言えよう。上記の三つとあわせて、一通り考えられる様式が揃ったという結果になる。
もともと頭が人間という構図の実例は、個人的には絵巻ではいまだ確認できていない。この話題をクラスで触れてみたら、学生たちのコメントにさっそく「(その様子は)想像して気持ち悪い」とあった。このような素朴な感想は、あるいは思う以上にたしかな理由があるかもしれない。
2018年6月30日土曜日
合体人間
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