ソウルの国立中央図書館を訪ねたときのことである。広いロビーには、一枚の古地図が掛けられている。きっと昔のソウルだと推測できるが、そのタイトルはまったく読めなかった。二番目の文字は、「羊」に「言」二つ(写真)、読みやすくて判らない。周りの韓国の友人も、そして漢字の知識には自信のある友達も、同じように首を捻った。
ややあとになって、携帯の電子辞書で調べたら、なんとさっそく答えが出た。辞書に入っているだけではなく、それもパソコンの通用の文字の一つで、拡大したりして確かめることまで可能だ。なんのことはなかった、「善」の異体字なのである。しかも「首善」という言葉は、れっきとした出典をもち、用例は「漢書」に遡る。「天下の模範を立てる」「京師を首善之地と称す」などとあった。韓国の歴史にはまったく疎いものだったが、どうやらソウルという韓国の首都のことを歴史上のかなりの時期にわたって「首善」という名前で呼ばれていたものだった。
いまは、ソウルの中国語訳が変わり、その公式表記が「漢城」から「首爾」と変身した。中国の新聞などでこの訳語を読んで、いつでも違和感を禁じえない。聞くところによると、中国の色合いからの脱却との意図が働いていて、首都の名前の変化はまさにそのような文化人、知識人たちの苦慮の象徴だとか。そのような事情だったら、「首善」という名前も、まさに歴史的な理由で継続の使用が拒絶されたに違いない。
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