2012年2月19日日曜日

電子トレース

普通の印刷物で絵巻の説明をするとしよう。説明対象である画像をどのように載せたらよいのだろうか。白黒が標準だから、必要な部分を取り出して、できるだけ見せたいところだけを出す、ぐらいの対応が予想できるが、もうすこし工夫があるのではないかと苦慮する。

いわゆる「トレース」という方法があった。むかしから多くの出版などに見られる。流暢な線で画面の特徴や大事な情報をきちんと捉えて、それ自体が一つの鑑賞対象でさえある。絵描きのプロ、あるいはそのような才能を持っている人には、きっと大したことのない作業だろう。いつかある歴史学者の回想録で、そのようなトレースの技術を集中して習得したと読んで、なぜか大いに感心した。そんなに簡単に手に入るような技でもなさそうだ。そこで、いまはなんでもパソコンで対応してしまう。デジタル画像に加工するソフトが山とあって、かつまたトレースすることは基本的な機能だ。しかしながら、あれこれと試してみたが、絵巻の画像処理に使えるものには、いまだ出会っていない。きっと作品の年輪によることだろう。絵の輪郭とは別個に、それに負けないぐらいさまざまな曲線や色の塊が混じってしまって、どうやっても満足した結果が得られない。現在、最善と思われるのは、絵を合成する方法だ。120219見せたいところをコントラストを目いっぱいに上げたまま切り取り、同じ絵をもう一枚用意して、ぴんとをはずすような処理を施して背景に使う。このような操作を加えることにより、絵の中の特定内容への指示も、たとえば番号を振り当てるようなことよりはすこしは自然な結果が得られる。

画像の掲載は、さらに著作権の問題が絡んでくる。商業雑誌だと、著者が自分で許可を取っておくことを要求されることも多い。数百年前のもので、法律で規定するような著作権がないはずだが、その分所蔵者の考えがより優先される。そういう場において、トレース、それも電子トレースって、どのように受け止められることだろうか。

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