2012年5月14日月曜日

模写本の効用

週末は研究会で東京に出かけた。それに合わせて、二つの大学の国文学研究室を訪ね、いずれも心のこもったもてなしを受け、先生や大学院生たちと充実な会話ができた。とりわけ一つの内輪の研究会に飛び入りで参加させてもらった。来月に予定されている全国規模の研究大会での特別展示のために、展示品の解題集作成がその集まりの理由である。非常にユニークな展示になりそうで、一つの大学の、それも近年になってはじめて積極的に蒐集した20点を超える上質な模写が中心になる。一流の名作の模写から、いまだタイトルもストーリも不明なものに至るまで、非常に見ごたえがあるものばかりだ。

120513中世名品の模写。このグループの作品をどのように見るべきだろうか。美術品の物差しをもってこれを図るとの視野は、もうとっくに歴史や文学を研究する立場を束縛するものではなくなった。絵巻などの名作の内容を理解する、それを読み解くという意味では、模写は貴重な位置を占めていることには、だんだん共通認識が成り立つようになった。一方では、模写本を実際にどのように応用するのか、それにはどのような可能性が隠されているのか、まだまだこれからの課題である。一例としては、たとえばつぎのことがすぐに思いつく。一部の名品は、現在伝来していても、色が剥落し、線が薄れて、いわば変わり果てた姿を見せている。一方では、数百年前に行われた模写となれば、現在とはかなり異なる状態のものがそこにあり、いまや見られないものも多く残っていた。そのため、名品のかつての姿を模索する上で、大きな参考になる。さらに複数の模写を並べ、互いに比較することを通じて、原本の変遷、模写そのものの順番や性格を考える上でも、ヒントが多くて、魅力的な課題だ。

同じ研究会に先立って、学部生を対象としたゼミが行われ、惜しみなく持ち出された貴重な巻物を、関心を持つ若い学生が丁寧に開いたり、巻き戻したりしている眺めは、じつにいい風景だった。古くから伝わった書物や巻物を体感するということは、とりわけバーチャルが日常となったいまの若い世代の人々には、どんな説明や読書でも代えられない貴重な経験に違いないと改めて感じた。

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