週末になれば発表が重なり、かつ複数の研究会が予定されているなど、日本滞在の研究生活はいつになくフル回転の毎日なのだ。それでも今週は、前から予定していた計画を実行し、広島に赴いて大学時代に教わった恩師を訪ねた。そこには昔の同級生が住んでおり、駅からずっと付き添ってもらっての小旅行だった。
大学を卒業してからすでに三十年経った。職場を日本以外に求めたこともあって、恩師には十年に一度お目に掛かれるかどうかになってしまった。指折って数えてみれば、たしかに二十数年前にすでに定年なさったはずだから、はたしてお体の具合はどうなのかと、不安を感じたまま恩師宅前に立ち、見覚えのあるドアを叩いた。矍鑠として、軽やかな身なりで迎えてくださった恩師の姿には少なからずに驚いた。お茶やお菓子が出されて、昔と変わらぬ会話が始まり、さまざまな話題が出てきた。中でも、壁に掛けられた唐詩の書に及んだら、なんと恩師はなにげなくテーブルの上のメモを指差し、私たちの到着を待っている間に、その詩の韻を踏んだ漢詩をお書きになったとのことだった。おもわずカメラを向けた。
未名湖畔群鶴翔
赤門台上論英風
正是広陵好風景
落花時節又逢君
なぜか教室でレポートを差し出して、褒められたような、歯がゆい、赤面する感覚に一瞬捉われ、それでも「又逢君」には、さすがに感慨が湧きあがった。当時のクラスメートはわずかに九人、しかも会話をしている間もさらに別の二人の同級生に電話ができたという、過ぎ去った時間を遠慮なく楽しみ、思い出に耽っても許されるような言いようのない気持ちに包まれた。
恩師に別れを告げたら、思わぬことにシリーズものの書籍をお土産にいただいた。思えば日本留学した当初もまったく同じ一幕があり、しかもその時にいただいた書籍はいまだに研究室に置かれて、時々同僚に貸し出したりまでしている。そのような財産がまた一つ増えたとの思いを噛みしめながら、しっかりと再会を約束して帰途に着いた。
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