デジタル環境を観察するために、オンラインで公開されているものと在来の公刊された研究とを関連付ける作業はつねに魅力のあるものだ。ささやかな実践として、奈良絵本関係のものを取り上げてみた。ちょっと分量が多いのではないかと想像していたが、実際にやってみて、がっかりするくらいだった。翻刻のみのものを除いて、注釈や現代語訳付きのもの、言い換えれば、読むための基礎研究が施された出版物を対象にしたが、併せて四点五冊では、その底本がデジタル公開されているのがわずか十二作に過ぎない。
言葉通りの小さな作業だった。しかしながら、それでも書誌の説明などを読みながら、改めで気づいたことがある。一つは、内容や質はともかくとして、注釈というアプローチが早くから奈良絵本に向けられたことには、やはり驚いた。「校注」と名乗って御伽草子を取り上げた早い出版は、実に昭和二年に遡れる(『校注日本文学大系19』)。もう一つは、このジャンルの作品を取り上げる場合、「翻刻」作業の重みだ。語彙の解釈や文章の読み下しどころか、漢字に書き換えることもなく、わずかに句読点を付け加えて、ただ延々と変体仮名の文字を現代の活字に置き換えるだけの作業のために、これだけの出版の部数が費やされたものだ。いうまでもなくそのような必要を研究者たちが共通して感じていたことだろう。また奈良絵本というもの性格、とりわけ似たような伝本の共存、相互考証のための必要などが、それを要求していたに違いない。そして、そのような作業の到達につねに目を配らなければならない。その直接の結果、奈良絵本の目録がほとんど定期的に繰り返し作成されてきた。
それにしても、先学の研究者からの手ほどきを受けながら、じっくりと注釈付きの活字出版を読み、気が向いたら、クリック一つでパソコン画面にその底本を高精度の画像で呼び出して、気が済むまで読み比べることが出来る。古典の勉強も、ここまでやってきたものだ。この短いリストも、より多くのデジタル公開を待ち望みながら、これからすこしずつ充実していきたい。
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