大学での講義は、今学期の二週目も終わった。講義の一部として、普段は自分でもあまり見ていない絵画作品を、学生たちとじっくりと時間をかけて読んでみた。デジタル画像を教室に持ち込み、備え付けのプロジェクターに映し出して眺める。得がたい経験である。今週の一つに、細かな書き入れが着いている国宝「聖徳太子絵伝」の数場面があり、とりわけ太子誕生にスポットを当てた。
思い出してみれば、ちょうど去年のいまごろ、前後して二つの場所で御伽草子に描かれる出産を取り上げていた。それと比較してみれば、まさに中世とそれ以前の情況が対照的によく分かる画像実例なのである。「間人皇女御産」との書き入れが、人物や出来事の内容を過不足なく明示しているが、ビジュアル的な表現は、子供を抱く皇女と、その彼女を囲む五人の晴れやかな姿のみである。厩戸の前という伝説が表現の対象となり、子供よりも一回り大きくスペースを占めたりっぱな馬が顔を覗かしている。そして、突拍子もないぐらい華やかな美女集団の姿は画面いっぱいに溢れ、どこかまったく場離れした構図を成している。敢えていえば、つぎの出産祝賀の構図こそ、男性たちも姿を見せて、後世に広がる出産の構図に繋がっているのである。
いうまでもなく、この出産の様子は、中世に喧伝された太子伝の一端を担うものだ。中世の言説を丁寧に掘り下げ、読み比べていけば、豊かでいて、時と共に変化し展開する多彩なイメージが見えてくるに違いない。いつかの課題にしたいものだ。
e国宝:「聖徳太子絵伝」
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