ときどき、違う言語間のすごい対応言葉に出会う。今週もそのような興味深い一例が印象に残った。小さな内輪の研究会に出て、テーマは今時のデジタル資料の使い方だった。発表者の一人は自慢げにユニークなセットを持ち込み、それの由来を丁寧に説明した。それによれば、「Homer Book Scanner」という名前だった。話を聞きながらさっそく同じサイトをクリックしてそれを確かめたが、いささか驚いた。英語の言葉としてどれだけ広く認知されているかということでは議論の余地もあるだろうが、それが指しているのは、まさに日本で盛んに話題になった「自炊」そのものだ。しかも一発で「非破壊的自炊」を実践しているなのだ。
同サイトの中では、これのアプローチを「Homer」と省略して称している。この言葉自体は、「家にいる人」というように取れないこともないが、もともと古代ギリシアの詩人の名前とのこと。なれば、「自炊」と比べれば、このネーミングは遥かにエレガントなのだ。それはともかくとして、手作りの仕事台、セットとなる専用ソフトウェア、汎用のパソコンシステムへの対応、しかもそのソフトがオープンソースでだれでも自由に利用したり、新たな機能を組み入れたりすることが可能になっていることには感心した。ソフトウェアの内容は、写真に撮影したものの自動修正と電子整理であり、言い換えれば書物のデジタル化を裁断しないことを前提として実現しようと工夫したもので、普通の書籍のデジタル化を真剣に考えての取り組みなのだ。
「自炊」あるいは「Homer」の目的は、いうまでもなく書籍そのものを共有しようとするものではない。日本の場合、それはおそらく多くは多量の書籍の保存場所の確保などにあり、ここ英語圏では、少なくとも研究会に話題に出たのは、デジタル化した上の検索、分析だった。ここには、例の著作権関連の議論はたしかに無視できない。しかしながら、デジタル化した資料は、そうでなければ実現不可能な環境を提供していることもたしかだ。そういう意味で、デジタルしたものそれ自体が、一つの新しい知的財産にはなり、研究者同士で共有することが自然と期待される。具体的な例を一つ添えておこう。日文研で公開しているデータベースの一つには、「日本語語彙研究文献」というのがある。対象となるデータは似たようなプロセスをもって収集されたと明らかに思われる。特定のテーマのためのデータリソースとして、関連する分野の研究者にはありがたいものであり、学術研究に有意義なデジタル資料の共有という意味で興味深い実践を見せてくれている。
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