2013年5月26日日曜日

先代萩

休日の午後、特別に調べることもなく銀座界隈を歩きまわった。もともと繰り返し報道された新しい歌舞伎座の様子を覗いてみようと漠然に考えていたのだが、実際に近づいてみたら、なんと立見席の当日券が売られ、それもすぐに開演するものだった。迷わずに列に並び、ほんの十数分ですでに歌舞伎座の中に入った。学生時代、南座の顔見世を楽しんだころに立ち戻ったような錯覚に陥ったのだった。

130526演目は「伽羅先代萩」から二段、きっちりと七十分の舞台に纏められた。このストーリにまったく予備知識を持っておらず、およその展開をなぞったのみで、戻ったらまずはウィキペディアであらすじを確認したぐらいだった。それはともかくとして、実際に劇場に入ったら、さすがに雰囲気が違う。大向こうからの掛け声はあれだけにぎやかで、数箇所からどっと沸いてきて、まさに臨場感たっぷりのものだった。この演目の伝統やら、見所やら、評論家に言わせるときっと数え切れない逸話が残っているだろうが、今日の舞台では、一番のハイライトはやはり二人の子役だった。透き通った、綺麗なせりふには感心をさせられ、「お腹が空いても、ひもじゅうない」という一言は、現代語と古語とが具合よく交じり合って、さすがに伝わって、満場の笑いと拍手を博した。

それにしても、演目の終りの、ライトを落とされた中で鼠の化身が立ち去るという演出は、とりわけ印象的だった。それまで絶妙な鼠の踊りが鮮烈だっただけに、いかにも鼠らしく、仄かな光の中で鮮やかな舞台が幕を閉じたものだった。「陰影をもつ」ことが日本的な美の特徴の一つとされるが、それがまさに思い切って実行されたことで、余韻をもって観客を酔わせた。はたして現代的な感性なのだろうか、それとも歌舞伎のしっかりした伝統の一側面なのだろうか。

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