2013年12月21日土曜日

大英春画

131221真冬の小雨の中、大英博物館の前に立った。十分に予備知識をもって訪ねているにもかかわらず、ギリシア風の柱の間から飛び出した巨大な「Shunga」の文字には圧倒され、言いようのない驚きを感じた。

大英博での特別展は、きっとつねにこうなるのだろうけど、遠方からの一見の客にはすべて特別なものなのだ。まずは料金システムが違う。あれだけの博物館が無料なのに、この展示ホールに入るには、ほぼ日本の普通の美術展と同等の入場料を払わされる。また、ほかの展示はほぼすべて写真の撮り放題なのに、ここだけは撮影禁止だとしっかりと釘を刺される。そして一旦中に入ってしまえば、展示を見る行列の進行スピードは極めて遅く、みんな熱心に長文の解説文を最後まで目を通す。展示の内容と言えば、肉筆絵の比重はあきらかに高く、それも巻物や掛け軸など、普段さほど多く紹介されないものが多い。しかもなんの前触れもなく西洋の、それも時代違いの春画をすべての展示より前に置かれ、中国の春画、明治に入ってからの写真などをあまり関連もなく差し込まれ、終りには学者たちのシンポジウムの様子が写真入りで掲げられて、内容は内容だけに、微笑ましいお愛嬌ものが多かった。そのような企画側の配慮に十分に応えて、見学者の数や質は素晴らしい。日本での特別展と比べれば、見学者の数がおそらくかなり見劣るものだろうけど、智的な関心を呼び起こしていることが一目で分かる。一人だけの、学者然の見学者が多いだろうと想像していたが、そのような顔は男女問わずたしかに多数見られた。一方では、親しげな同性の友人、年が離れて母と娘に思わせる連れ合いなど、もの静かに会話が交わされ、用いられている言葉もずいぶんと聞き分けられないものがあった。対して興奮気味の浮いた若いカップルはごくごく少数派なのだ。

展示の場は大英博だということは、春画のことを改めて考えさせている。エジプト、ギリシアの古代石像が圧「館」の空間だけに、英雄、宗教、死と弔いなどはベースとなる。その中にあって、普通の人間にぐんと近いこのテーマが大きな関心を集めたことは、いたって当然に思えてならない。

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