ラジオからは「入梅」という言葉が聞こえた。数日の異常気象の天気が過ぎ、ようやく梅雨に入った。降りしきる雨の中、東京を離れ、今度の仕事滞在は無事に終えた。ただ新幹線に乗り入れる直前まで一つの学術講演会に出て、丁寧に企画された二つの講演を会場にいる500人以上の聴衆とともに聞き入った。
講演会司会者の言葉を借りれば、二つの講演はまさに硬軟を代表するものだった。とりわけ二番目のは、純粋に一つのプロジェクトのみをめぐる報告で、予備知識などを持たないままではとっつきにくいものだった。取り扱ったのは、江戸末期の、死去した実在の皇女たちのために作成された坐像だった。木像の規模も出来栄えも、とても時代の達成を代表するものではなく、しかも尼寺に秘蔵されて、普通の信者に訴えるものじゃないから、自然に関心も少ない。しかしながら、講演者はたくさんの写真を見せてくれた。普段まったく見られない風景を目にして、とても新鮮に感じた。調査では、木像の頭を取り除き、胴体にカメラを差し入れる。カメラは特製のもので、わずかな空洞になっている胴体の中を綺麗に写して、内側に記された文字を写真に収めた。修復では、木像を持ち出して数年を掛けて作業をして、小さな坐像を細かく独立のパーツに完全に解体してしまう。その過程で、前回の修復で絵の具の下地に使われた新聞紙を丁寧に解読し、それをもって前回の修復年次の判断の根拠とした。しかもそのような修復はこれまで二百年程度の間に数回も繰り返されことをあらためて知った。
主催機関の長い伝統により、公開講演会の様子はインターネットで実況放送され、かつ録画のビデオはそのまま公開される。あくまでも開かれた学術報告であり、関心を寄せる人々を地道に増やす努力は素晴らしい。
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