特別に行事のない日を狙ってまた出かけた。今度はちょっぴり遠くへ足を伸ばして、ずっと訪ねる機会がなかった日光東照宮に入った。写真などで十分に見て、大体の様子もなんとなく想像が付いてはいるが、それでもあの金粉をいたるところに用いた装飾のあり方に少なからずに驚かされた。しかも多くの建物の色は他所ではあまり見かけない黒や白などを用いたこともあって、いっそう特異な感じを覚えた。
東照宮には、鶴が多い。壁画、彫刻、銅像など、どれだけの数のものがあったのだろうか。じっさいに家康のお墓の前に立っているのも鶴だった。そんな中、陽明門を潜ったら、桐油蒔絵の鶴が特別に紹介されていることに気づき、まわりに貼り付けられた新聞記事などと合わせてしみじみに見入った。たしかに綺麗な絵であり、ユニークな構図である。絵師は狩野祐清、蒔絵師の名前は不明、とされている。興味深いことに、この蒔絵が二百年も前から貴重なものだとされ、これを保護するという目的で寛政のころ浮き彫りの彫刻をもって覆い被ったとのことだった。先祖から伝わる絵を大切にしようとする気持ちはありがたいが、それにしてもこの保護の方法は思い切ったところがあった。人目に触れさせないということは、考えてみれば究極な方法だと言わなければならない。
そのような先人の意図の割には、目の前の展示はいかにも素っ気なくて、なげやり的な思いさえ起こさせてしまう。絵自体は厚手のビニールシートに覆っただけで、しかも切り貼りされた新聞記事以外は、説明のパネルさえ用意されていない。当の陽明門はいまは大修理のまっただ中だ。門全体は白いテントに姿を隠されていて、しかもこれがすでに一年も経ち、さらにこの先五年も続くとのことだ。その中で顔を出しているこの蒔絵は、残念がる見物客へのせめての慰めなのだろうか。
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