日本の滞在もあっという間に一週間過ぎてしまった。毎日のように行事が続いていても、その合間を縫って出かけてきた。中でも美術館を二つ訪ねた。それもとても対照的になっていて、一つは良いものが展示されていてもほとんど参観者はなく、もう一つは意外なほどの少ない点数の展示品にもかかわらず考えられない人数の観客が集まった。平日の午後にもかかわらず、しっかりと行列を並ばされ、二時間待たされた。
熱心な参観者を集めたのは、あの「キトラ古墳壁画」である。ただこれも美術館ならではの効用だが、ずっと立った情報まま行列の移動を待たざるを得ない状況に置かれてしまうと、まわりの限られた情報や素っ気ないパネルの記述もついつい熟視、熟読し、それにより見逃しがちな知識が不思議なぐらいに頭に入ってきた。キトラ壁画の場合では、青龍と白虎の身体の構図はまるで互いに複製しているのではないかと思われるぐらい似通っていることにはっと気付かされた。両方ともに同じ形で尻尾と後ろ足が絡め、しかもその尻尾が空にむかって立ち上がっている。白虎の向く方向も通例のものと違い、南北が逆さまになっていることを知った。そしてなによりも十二支の一つである寅の鮮明な構図には驚いた。人間の身体や中国風の装束をし、威厳や凶悪な相を完璧に隠して、可愛さのみが残された虎。あえて言えば中世の鼠草子にみられる婿入り行列の鼠たちをすぐ連想させてしまうような造形には、はなはだ意外で、滑稽でいて愉快に思われるものだった。
今度の展示の中で、一つのハイライトは壁画の複製陶板とあげなければならない。しっかりした質感と、本物紛いの精密な制作、現物と並べて見られたからこそ、複製ものの完成度をあらためて認識させられ、それの積極的な利用方法をあれこれと想像したくなった。
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