一週間の休暇から戻ってきた。今度の旅先は、北の大地、アラスカ。ただ、陸に上ったのはわずか数時間、旅のハイライトは、あくまでも氷河の様子を海から眺めるというものだった。「アーム」と呼ばれる行き止まりの細い海湾をくぐり抜け、氷河にゆっくりと近づいて行く、これだけでのんびりと一日の時間を取ったのだった。
視覚的に新鮮な衝撃を受けたのは、やはり流氷だった。はじめての経験であり、前もって調べておくこともなく、ともかく目の前に展開されてくる未知の世界をじっくり見てみようという姿勢で臨んだ。流氷の海域に入るのは朝の七時だと知らされ、カメラを構えて備えた。狭い海路に入り、遠くからはまるで水墨画の中に登場するような長閑な釣り船のシルエットが濃い霧の中からわずかに現われた。甲板に集まった人々のざわめきが聞こえ、はじめてそれが巨大な流氷だと気づいた。しかもその奥には小さな島のようなものが視線を遮り、それを回って船がまっすぐ進むかと思ったら、目の前には突然に視界いっぱいの絶壁が迫ってきた。かなりの迫力があった。崩れ続ける氷河を視線に捉えるのはそれからさらに数時間あとのことだが、進むに従い数が増えてきた流氷の数々を目にして、大自然の威力をただただ噛みしめるものだった。
まさに「氷山の一角」という表現があったように、流氷の九割は水面の下に隠されている。しかしながら、そのわずかな一割でも、大きいほうとなると、観光ボートよりもずいぶんと大きい巨大なものだった。近づくほどに青色に見える氷は、密度が高いがために自然の色をすべて吸収して、青だけを反射するという物理の原理が生み出した色だとガイドに教わる。それでも、活発なアザラシたちはそのような流氷の周りを泳ぎ、氷の上に登ってひなたごっこしたりして、まさに安住の楽園としたことがとても印象的だった。
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