2015年3月7日土曜日

高膳

京都で開かれた国際研究集会の最終日、すべての発表などが終わったあとの夜、打ち上げの宴会があった。国際色豊かな参加メンバーを載せたバスが向ったのは、京都ならではの観光地にある料亭だった。

20150307純和式の料理と、畳の上での正座などを想像して宴会会場に入ると、金屏風を前にして用意されたのは、なんと黒く塗られた小学校の教室に用いられるようなテーブルだった。いささか意表を衝いた光景に、参加者からは少なからずの感嘆があがった。やがて料理が運ばれてくると、すかさず机の正しい呼び名を尋ねた。「高膳」だと、はっきりした答えが戻ってきた。言われてみるとまさにその通り、この名前しかないと妙に感心した。さらに、ならば椅子はどうかと聞くと、特別になにもないと、軽く困惑そうな顔だった。会場を後にして思わず確認しようとあれこれ調べてみた。その結果は、これまたいささか意外だった。高膳という言葉は、料亭の宣伝などに広く使われているが、しかし『広辞苑』にも『日本国語大辞典』にも収録されていない。いまだ公式な市民権が得られていない言葉なのだ。対して、高膳とあれば椅子にはきちんとした呼び名が付けられている。それは「高座椅子」だ。念のために「高座の椅子」ではなくて、「高い座椅子」なのだ。背もたれがあって脚がない、和室で使われるという「座椅子」は辞書に載せてある。そのような座椅子に脚が着いたら自然と「高座椅子」に変身したということだろう。

畳が苦手な外国人を意識しているであろう料亭の風景の変化には、しっかりと国際的な色合いが織り交ぜている。「膳」に「椅子」、そこに「高い」ということを取り入れるだけで、和洋折衷の鮮やかな一章が出来上がった。

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