2016年12月16日金曜日

歌の夕べ

年末にかけて、しばしの休暇を取った。今年は、ニューヨーク。噂通り、東海岸の冬も厳しい。マイナス20度のところから出かけてきても、それにはまったく負けないくらいの厳しい寒さなのだ。もともとマンハッタンの夜でもビジネススーツに身を固める颯爽としたニューヨーカーたちの出で立ちを見ての感覚にもつながるのかもしれない。

到着の夜、さっそく文化の町にふさわしい集まりに足を踏み入れた。あのカーネギーホールだった。上演されているのは、一人のソプラノによるコンサートで、しかも一晩だけのステージだった。舞台に上がったのは、二十人足らずの楽団、一人の上半身を裸にする男性のダンサー、そしてずっとグレーのドレスを身に付けたままの歌姫だった。歌のテーマは戦争と平和。歌の言語にも、オペラの常識にも教養をまったく持ち合わせていない者として、ステージの真ん中上に映し出される字幕をずっと目で追い続けるはめとなった。映し出されたのは、単純でいて飾り気のない言葉に綴られた、どっちかといえば素っ気ないセリフだった。ただ歌声は、ときどき楽器と完璧な和声をなす、なんとも美しくても、われを忘れさせてしまうものだった。

これもいまごろのニューヨークのスタイルだろうか、アンコールの拍手に答えて、歌姫はマイクを握って突然に喋りだした。それも即興でいながらも、とんとも滔々と淀みなく、魅力的だった。語られたのは、深刻な世の中と人間の運命、音楽の力だった。超満員の観客たちの、歌を聞く以上に真剣に聞き入る姿からは、アメリカの底力を垣間見た思いだった。

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