2016年12月26日月曜日

久米仙人の姿

クリスマスが近づくなか、ニューヨークでの休暇を続ける。明るく、温かい日差しを愉しみつつ、広大な中央公園を南北に半分近い距離を歩き、MET(メトロポリタン美術館)に入った。入場料はほぼ日本の国立博物館の倍になることに驚きを覚えながらも、溢れんばかりの訪問客にまじり、館内をゆっくり見てまわった。なにがともあれ、やはり日本関連のものを確かめておきたい。

絵巻や屏風だけでかなりの空間をもつ大きな展示室を構えている。中でも、りっぱな六曲一双の「徒然草図屏風」(個人蔵)をつくづくと見入った。説明文は、短いながらも、徒然草についての絵画表現の伝統や、ドナルド・キーン氏の翻訳を引用してのエピソード紹介など、あくまでも丁重そのものである。紹介文が触れたのは、つれづれの序段、色欲に惑わされる久米仙人の第八段、それに鼎に頭を突っ込ませた仁和寺法師の第五十三段である。もともと版本の挿絵まで視野に入れれば、徒然草を題材とする画像作はけっして少なくはない。ただ、画題が集中しているわりには、構図において互いの踏襲は意外とすくなく、絵師たちの活発な創作が非常に目立つものである(随筆と絵)。ここの久米仙人は、まさにそれの好例である。仙人の失敗談を描くにあたり、ほとんどの絵は空中に、あるいは地面に落ち転んだ滑稽な格好を競って描くのに対して、目のまえの屏風に見えるのは、あくまでも神様らしく空中に佇む、颯爽とした神様らしい姿である。久米仙人の失敗は、このつぎの瞬間に訪れてくる、ということだろうか。

同じ展示室には、さらに伊勢物語、平家物語、南蛮などの屏風が出品されているが、個人的にいちばん思いを馳せる「保元平治合戦図」はついに見かけられない。ただ、同美術館は兜鎧の類の蒐集や展示にかなりの力を入れているらしく、その展示ホールに、日本の甲冑がここでも一室を占めていることを特筆しておきたい。

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