2017年10月14日土曜日

産褥の読み方

お伽草子の画面において、出産は繰り返し描かれるテーマの一つである。状況、行動、そして人物が画面から極限までに削られたところ、残された構成内容とは、白い服装と、座った姿勢を取る産婦を囲む、うず高く積み重ねられた専用の空間である。この特徴的なスペースのことを、当時の人々はたしてどう呼んでいたのだろうか。じつはこの答えを求めて、関連の知識を持っていそうな人に会えばすぐ聞いてみている。ただ満足な結果にいまだたどり着いていない。

そんなところ、江戸も後期の書物である「病家須知」のいちページが目に飛び込んできた。すこしヒントになるのではないか思われた。早稲田大学図書館の所蔵がデジタル化されているので簡単にアクセスできた。示された言葉は「産褥」である。絵から判断して、同じ空間のことが示されているとは明らかだ。言葉の読みは、「サンゴの子ドコロ」だった。もともと、この言い方ははたしてこの語彙の読み方なのか、注釈的な説明なのか、にわかに判断できない。同時に「ジャパンナレッジ」データベースからこれを追跡してみれば、「産褥(さんじょく)」はどこまでも現代語の語彙として扱われ、平安時代の文献にみる「産屋」の訳語として頻繁に用いられた。

古典画像と同時代の文字文献とを照合する努力の具体例として、ここにあげた構図や言葉について週末の学会での発表で取り上げた。あわせて学会プログラムなどの詳細を添えておく。

JSAC CONFERENCE

0 件のコメント: