2017年12月23日土曜日

文字の姿

今年は、曜日の並びもあって、金曜日からすでに年末年始の休暇に突入した。大学もキャンパスが完全に締まり、新年あけの二日まで休みが続く。この一年のことをあれこれと整理し、日本から持ち帰った書籍を手に取ったら、あの「絵巻マニア列伝」のカタログを読み耽け、再び惹かれた。

たとえば右に示した二行の抜粋。おそらくこの展示全体を見渡しても一つの代表的なものであり、絵巻、それの制作、そして享受を結びつける精緻をきわめた一コマに違いない。二行の文字は、「実隆公記」に記され、「及晩石山絵詞立筆」(明応六年十月九日)、「石山縁起絵詞終書写功」(同十一日)と読む。新たに巻四を補作するにあたり、実隆は書写を依頼され、名誉ある作業を三日ほどかけて完了させたものである。あわせて六段、数えて百三十九行という分量である。それにしても、文字の姿というのは、見つめるほどに味わいがあり、想像を羽ばたたせる。「石山寺縁起」の詞書は、簡単に見られるので、関心ある人ならすでに繰り返し読んだことだろう。じつに堂々たる書風で、今日の人々が抱く中世の文字のイメージをそのまま具現化したものである。一方では、同じ人間でありながら、日記という私的なものとなると、文字はこうも違う。すべての線はおなじ太さを持ち、文字の形は思いっきり崩され、おそらく凄まじいスピードで書きあげられ、筆者以外の人への情報伝達を最初から拒んでいるようにさえ見受けられる。

絵巻と古記録、絵画と文字、そして作品とマニア、これを同列に一堂に集めた展覧会の様子は、いまでも脳裏に明晰に残っている。一方では、文字資料には、翻刻や現代語訳、ひいては音声解説など、多くの説明が施されたが、それでも見る人の足を止められなかったように見受けられた。新たなアプローチだけに、よりマッチした展示の方法とはなにか、やはりついつい空想してしまうものだった。

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