2020年4月11日土曜日

出産の図

MOOC (Massive Open Online Courses、ムークス、大規模公開オンライン講義)を始めて覗いた。ハーバード大学のMelissa McCormick教授が講師を務める「Japanese Books: From Manuscript to Print」講義で、三週間前から始まり、今週になって予定した三つのモジュールがすべて公開され、これから一年間アクセスできるとのことである。よく制作されたもので、初心者向けながら、とりわけ動画の部を視聴して、随分勉強になった。

個人的に衝撃的に接したのは、第二講で紹介された「The Chrysanthemum Spirit」(菊の精、通称「かざしの姫君」)からの出産の場面である。じつを言うと、出産のテーマについて、これまで数回研究会などで口頭発表をしてきた。(奈良絵本国際会議・西尾市岩瀬文庫・2011年9月23日、日文研・大衆文化の通時的国際的研究による新しい日本像の創出キックオフ・ミーティング・2016年10月12日、など)関連の多数の研究書にも一通り目を通しているが、この画面はついに視野に入らなかった。簡単に纏めればつぎのとおりである。出産の図をめぐり、はやくから「餓鬼草紙」、「聖徳太子絵伝」に見られ、前者の写実的、後者の叙事的といった明らかに異なる二つの系列は平安時代からすでに用意された。(「奉懸之儀」、「皇女御産の図」)そのあと、鎌倉、室町時代の絵巻における多様な変形を経て、奈良絵本の作品群になれば、一つの安定した構図に到着し、それに基づく安逸な再生産が広く認められた。あのまるでソファーのように埋まった白い高座に産婦を座らせ、助産婦たちが赤子を清めるという構図である。(「産褥の読み方」)平安時代からの伝統に照らして言えば、「聖徳太子絵伝」の画例に則った叙事的な方向に統一したと言えよう。そのようなところにこの出産の図に出会ったのである。素朴に、愛らしく質らった画面だが、あきらかに同時代の奈良絵本と一線を画し、叙事的な画風でありながらも、「餓鬼草紙」の流れを汲んだのである。

奈良絵本の絵は、総じて質素でいて、再生産の需要に応じようとする現実が伴う。しかしながら、その中においても、絵師たちはたえず大胆な創作を試み、古い伝統を受け継ぎながらも、そこから新たな一歩を踏み出そうとしていた。隠された魅力だと認識しなければならない。

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