2010年7月24日土曜日

聖人斬首の図

群衆のまえでの斬首刑は、絵巻においてくりかえし描かれるテーマの一つである。それらの画面を眺めつつ、西洋絵画になるとそれがどう違ってくるのかと、思わず想像してしまう。いうまでもなく数多くの実例をもつ画題だ。右にあるのはその中の一つ、構図はじつに興味深い。

100724これは、イタリアの画家ジョバンニ(Benvenuto di Giovanni)が1483年に描いたものである。タイトルは、「聖ファビエンの受難(Le Martyre de saint Fabien)」 。宗教のために死をぎ然と受け入れることが、絵のテーマだろう。絵巻における斬首刑の構図とかなり似ている。処刑の場、その独特の空間における典型的な人間像の配置、処刑の仕方や絵の切り取る瞬間など、どれも説明する必要もなく、とにかく分かりやすい。ただし、この絵の場合、特出なのは、おそらく人々の視線だろう。聖人と処刑実行人、この二人を見つめる馬上の将軍、民衆と遠巻きの軍人、それらの人々が互いに投げ出した視線は、画面上でいく層も交差する。「突き刺さる」という言葉がようやく分かったような、あるいは絵の上でつい自分で線を引いてみたくなるような衝動を呼び起こしそうなもので、力強い。

ちなみに、斬首というテーマにつきまとうグロテスクという要素が忘れられない。それとなれば、写実を求める西洋の絵画だけに、衝撃的な画例が少なくない。そのほとんどは、映画やテレビなどビジュアル表現のありかたがクリーンなものに徹した今日において、もう公に出すことさえ憚り多くて敬遠されてしまう。

0 件のコメント: