『デジタル人文学のすすめ』」と題する一冊を勉誠出版から出版した。この週末あるいは来週早々にも本屋の店頭に並べられるとの知らせをもらった。もともと海の向こうに身を置いているなので、実物が手元に届けられるのはもうすこし先のことになる。この一冊は、三人の編集者によって共同で編集され、あわせて十六人の執筆者による論考が寄せられ、いずれも二年まえの秋から始まった一年をかけての研究会から生まれたものである。
本のタイトルに思い切って「デジタル人文学」という言葉を用いた。もともと日本語の言語表現、あるいは日本における教育や研究での分野分けから考えて、かならずしも自明の選択ではない。英語における「humanity」にあたるものを、文学、法律、情報学などより具体的な分類をもって捉える傾向があると言えよう。そのため、英語では「DH(Digital Humanities)」という略語までかなり定着したのに対して、日本ではむしろ「デジタル・ヒューマニティ(ズ)」と名乗る学科や研究会があって、言葉の表現としてはいまだ流動的な印象を受ける。ただ、いうまでもないことだが、一つの用語の有無や使用頻率などはあくまでも表面的なものに過ぎない。どのような言葉で表現されるにせよ、デジタル環境の確立という事実、それが既存の歴史、文学、情報などの各分野にもたらした衝撃は無視できず、デジタルのある人文学とはまさに時代の縮図の一つであり、誰一人これとの付き合い方を直視こそすれ、目を逸らすわけにはいかない。
小さな一冊は、「現状」、「反省」、「未来」という隠れたキーワードで部立てをし、それぞれかなり具体的な、その多くはいまの日本のデジタル環境を代表するような実例を取り上げながら、詳細に報告し、あるいは忌憚のない批判を繰り広げている。関心ある読者にはきっと参考になることが多いと信じる。ぜひ手に取ってみてください。
『デジタル人文学のすすめ』(楊暁捷・小松和彦・荒木浩編) (立ち読み)
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