2013年8月10日土曜日

月は草の中

水の中の月なら、ありふれた景色である。ハリウッド映画を見れば、それが大手制作会社のロゴにまでなっている。一方では、たとえば草の中の月となれば、どうなるのだろうか。水のと同じアプローチなら、さしずめ金色に輝く草の表面を、というのもあるだろうけど、どうしても腑に落ちない。

130810そこで、「武蔵野図屏風」を知り、なるほどと思った。正直に言えば、解説を読むまでに、草の中の真ん丸い黒い物体の存在にすぐ気づいたが、それが月だと思いも寄らなかった。まさに石ころでもなければ、描きそこなった結果でもないだろうし、山とペアとなっていても、それの影にしは輪郭が違いすぎる。そこで月だと教わった。しかも調べてみれば、これは広く用いられた決まった模様であり、月を表現するエレガントなパターンだとされていたのである。ビジュアル表現の奥深さは、ここにもちらっと顔を覗かせた。

しかしながら、最初の一瞬だったにせよ、当惑の思いは、構図の奇抜さと、下手をすればその難解さを伝えているに違いない。じじつ、毎日の夜の散歩では、このころとくに晴天に恵まれ、よく月を眺めたものだ。広大な芝生の中を一周するのだから、見る角度も違う。もちろん足元には繁々とした草。それにしても、このような構図にはとても着想がいかない。そこで短い草と月、どのような表現がありうるのだろうか。まずはカメラを持ち出してそこからアングルを考えたいものだが、そうすれば、神秘な表現からはすでに一歩遠ざかった結果にならないのだろうか、答えが見えてこない。

武蔵野図屏風」(東京富士美術館)

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