ちょっとした理由で、三年ほど前にこのブログで一度取り上げた本をあらためて取り出した。タイトルは、「The Archimedes Codex」。デジタルと古文書の復元、しかも対象は西洋の書物なので、新鮮でいて刺激になる内容が多い。中では、イメージそのものについての興味深い議論があった。読んでいて、まさに「目からウロコ」との思いだった。
著者曰く、いわゆるイメージというものは、美術館員の立場からすれば、「芸術家が創り出した形」である。しかしながら、同じことをデジタル技術を駆使する科学者に問い質せば、イメージとは「光が生み出した数字」にほかならない(202頁)。まさに明晰でいて、はなはだ挑戦的な記述である。著者は解説を展開する。前者の「形」は、普通の感覚に合致するもので、およそなんの疑問も持たない。対してデジタル技術をもってこれを記録し、再現するとなれば、物事はまったく違う様相を呈している。突き詰めて言えば、光がなければイメージが見えてこない。さらに言えば、見るということを、なにも肉眼という、人間が備え付けている器官だけに頼るものではない。肉眼には見えない波長の光を用いれば、肉眼ではけっして見えていないイメージも数字に記録することが可能である。そこに、このマジックのような数字、いわゆるデジタルである。デジタルの真髄は、けっして記録、伝播、再現といった、単純な媒体に止まるものではない。もう一つの、遥かに大きな機能は、一定の規則に則っての操作である。いまやほどんどどんな基礎的な画像処理ソフトにも付いている色のチャンネルを用いての編集機能ということを挙げれば分かりやすいだろう。このような操作を加えられたデジタルデータは、肉眼では見えないイメージまで確実に再現できる。そのようなデジタルデータを巧妙に動かして進めた操作、そしてそれによって得られる結果の成功例というのは、まさに芸術的なものとしか言いようがない。
以上の内容を含む報告は、著者のWilliam Noelがあの「TED」の講演で披露している。あまりにも多くの発見やプロセスをごく短い時間にまとめることは、さぞ苦労したし、必ずしも十分に伝わったとも思えないが、魅力的なデジタルプロジェクトについての、一つのユニークな要旨説明だと捉えれば、大いにためになるもの言いたい。
TED:失われたアルキメデスの写本の解読
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