2018年9月15日土曜日

蒸したり凍らせたり

普通に読書したり、蔵書家の逸話を聞いたりして、書籍にはいつも敬う気持ちを抱く。しかしながら、古典籍の保存ひいては修復のこととなると、どうやらそのような素直な感覚だけで済むとは限らない。ときにはかなり乱暴で、予想も付かない古籍の取扱い方が視野に飛び込んでくる。

中国国家図書館の話だが、前世紀五十年代、地方から持ち込んできた宋の木版大蔵経(「趙城金藏」)の修復が大きな業績となっている。戦乱を潜り抜いた巻物は、黴が生えたりして、開かない状態にあった。それの修復には蒸すという方法が取られた。七千巻におよぶ分量だから、特製の蒸し器まで作成された。一方では、この夏に起こった真備町の水害に関連して、水浸しに遭った貴重な資料の応急保存に凍らせてしまうという対応が取られたと報じられている。こちらのほうは、順次ボランティアの手によってもとの姿を取り戻すことだろう。書籍に蒸したり凍らせたりする対処を加えるとは、専門の知識をもっていない人間にはかなり奇想天外なものだ。ただ、調べてみると、どちらもそれなりにスターンダードな方法であり、中国では古籍修復の常識紹介などには頻繁に触れられ、日本では水害資料の冷凍対応には、関連のガイドラインまで整備され、建てものの水道破裂など局地被害などで応用されているもようだ。

蒸すのも凍らせるのも、けっきょく書籍をもとの形に復元させるための極端な手段だ。書物にかける並々ならぬ努力には、感動というほかはない。

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